歯槽膿漏は、歯ぐきが腫れて、歯ぐき(歯槽)から膿が漏れ出るようになって、歯がぐらぐらして抜ける病気です。歴史的には1800年代から歯槽膿漏という病名が用いられるようになりました。
今の日本歯周病学会は、日本歯槽膿漏学会として発足しましたが、日本歯槽膿漏学会誌が1959年に発刊され1967年まで続き、その後歯周病学会誌として引き継がれました。歯槽膿漏という病名は、学問的には1967年頃まで用いられてきましたが、その後は歯周病という病名が使われています。
1977年の歯周病に関する教科書にはその索引に歯槽膿漏という言葉はありません。歯槽膿漏という言葉は、学問的には40年以上前からほとんど使われなくなった言葉ですが、それでも一般には特に年長者では歯槽膿漏という言葉は、おじいさんやおばあさんから聞いて知っている人が多いのです。
歯周病はどのような病気?知ってるようで実は知らない、歯周病という病気の概要を解説!
歴史的に歯の周りの組織の病気として使われてきた「歯槽膿漏」が「歯周病」にかわったわけですが、歯槽膿漏では重症になって初めて認識され、そこまで病気が進むとほとんど治すことができないと認識されていました。
それに対して、歯周病では歯槽膿漏にまで病気が進むまでの過程があきらかにされ、歯周病が始まる初期の状態から歯槽膿漏までの状態も歯周病に含まれるようになりました。
すなわち、歯周病はその病気が始まる歯肉炎と歯の周りの組織の破壊が起こる歯周炎をまとめた言葉ですが、歯槽膿漏は重度に進んだ歯周炎として、歯ぐきから膿が出たり、歯がぐらぐらしたり、歯の周りの破壊が目で見てわかるぐらいに歯周病が進んだ状態を示す言葉です。
歯周病の原因はデンタルプラークですが、デンタルプラークの中で歯周病の原因菌が増加してくると歯周病が発生してきます。
歯周病の原因菌はすでにほとんどの人の口の中には存在していますので、デンタルプラークが歯に付着して時間が経過するとともに、歯周病原因菌が増えていきます。
また、デンタルプラークの付着する部位も関係があり、歯と歯肉の境界部で増加すると歯周病が発生します。
これは、歯と歯肉の境界部では、他の部位に比べて細菌の毒素が歯肉の中に入り込みやすいためです。歯肉内に侵入した毒素は炎症を引き起こし、歯肉が腫れたり出血したりします。
炎症が骨まで波及すると骨が徐々に消失していきます。したがって、デンタルプラーク中の歯周病原因菌の種類や量、歯肉の炎症の起こりやすさなどで、歯周病の発生や進行のしやすさが変わってきます。
歯並びが悪かったり、適合の悪い修復物があったり、歯石が付着していたりすると、ブラッシングでデンタルプラークを除去しにくくなって歯周病が発生、進行しやすくなります。
また、タバコを吸っていると歯肉の血液循環を悪化させたり炎症反応に影響をおよぼしたりして、歯周病の進行速度が速くなったり、治療しても治りにくくなったりすることがあります。
さらに、糖尿病をはじめとするさまざまな病気が影響する場合や、薬の副作用で歯肉が腫れやすくなることもあります。
女性の方はホルモンの変動で歯周病が悪化することがあります。噛み合わせの問題で特定の歯に強い力が加わったり、くいしばりや歯ぎしりが強かったりすると、歯周病の進行を早めることもあります。
このように、歯周病の進行には多くの原因が複雑に関係して重症化し、歯槽膿漏という状態になっていきますが、どのような原因がどのくらい強く関わっているかは患者さんごとに異なっています。
歯を支える骨がほとんどないという、極めて重症化した場合を除けば、多くの歯周病は治ります。
ただ、「治る」というのは、歯周病の進行が停止するということであり、失われてしまった骨や歯肉が完全に正常な状態に戻るというわけではありません。
再生治療も行われていますが、その再生量は限られているために、骨が大きく失われている場合には正常な状態まで再生させることは困難なのが現状です。
歯周病の進行を停止させるためには、まず原因を取り除くことが必要です。
さまざまな原因が歯周病に関係していますが、デンタルプラークやタバコなどの原因を取り除くには、毎日のブラッシングや禁煙という患者さん自身の行動が重要となりますので、歯科治療さえ受ければ治るというわけにはいきません。
また、歯周病に影響している病気や薬がある場合には、医師と相談しながら治療を行なわなければなりません。
歯科医院では、ブラッシングでは除去できない歯周ポケット内のデンタルプラークを除去したり、歯石を取り除いたり、噛み合わせの調整やぐらぐらしている歯の連結固定、手術などが行われますが、多くの治療のために長期間の通院が必要になることも珍しくありません。
したがって、重症になってから再生すれば良いというわけにはいかず、進行を止めるということが基本となります。
さらに、歯周病は一旦改善したとしても、いつ再発するかわかりません。
歯周病は初期段階ではほとんど自覚症状がないため、自分では再発しているかはわかりませんし、重症化する前に治療した方が治療は簡単で治りやすいです。
そのためにも、定期的に検査を受けることが大切なことです。今まで何十年も再発なく過ごせていても、何かの病気や薬をきっかけに再発、進行することもあります。
また、歯周病を再発させないためには日常のブラッシングだけでなく、歯ブラシだけでは取り除けないデンタルプラークや歯石を除去することも重要になります。
早期に再発を発見したり、悪化させたりしないための予防処置を定期的に行うことは、歯周病の再発、進行を防止する効果が大きいだけでなく、むし歯の発生も著しく減少させます。
これを読めば、
歯周病がどのような病気なのかを知ることができます。