歯周病は細菌、特に歯周病原菌と呼ばれる細菌の感染により歯ぐきに炎症が引き起こされ歯ぐきが障害され、歯を支える骨が溶け、最後には歯が抜け落ちてしまう病気です。
そうすると細菌が原因だったら歯周病原菌を殺す抗生物質を飲めば治るはず、と思うのは当然のように思えますね。
ところが残念ながら抗生物質だけで歯周病を治すことは出来ません。なぜって? それには主に2つの理由があります。
それは歯周病が内因性感染症であることです。
内因性感染症とは生体内に常に存在する常在菌によって引き起こされる感染症であり、歯周病原菌も常在菌の1つと考えられているからです。
では、なぜ常在する細菌が歯周病を引き起こすのでしょう。それは細菌の塊であるバイオフィルム(プラーク)に占める歯周病原菌の割合が大きくなることで歯周病が引き起こされるのです。
これに対して外因性感染症という言葉があります。
これは生体内には通常存在しない病原性細菌が体内に侵入することで病気を発症する感染症で、これにはコレラや結核などがあります。
外因性感染症であれば病原菌を抗生物質で完全に取り除くことでその病気が治りますが、生体内に通常常在する細菌により引き起こされる内因性感染症では病気に関連する細菌を薬で全て除去することは困難であり、また無理に行うと生体に必要な細菌まで障害を与えてしまいます。
2つ目は歯周病原菌が細胞外多糖体(extracellular polysaccharide:EPS)を分泌しバイオフィルムを作り、その中に隠れていることです。
バイオフィルムが存在すると抗生物質や免疫グロブリンがバイオフィルム内部に侵入するのを妨げることで歯周病原菌を保護することになります。
抗生物質でバイオフィルムを破壊しようとすると長期間にわたって多量の抗生物質を服用しなくてはならないことになります。
それでは消化器障害、耐性菌の出現など様々な副作用が引き起こされることになります。
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すると、歯周病の治療には抗生物質の使用は意味がないのでしょうか。
もちろんそんなことはありません。歯周病で歯ぐきに膿が溜まって腫れる歯周膿瘍などの場合では抗生物質の服用あるいは局所への注入は効果的です。
また、中等度以上に進んだ歯周病においてはスケーリングやルートプレーニングなどによりバイオフィルムを機械的に破壊した上で抗菌薬を投与することでバイオフィルムの除去効果が上がり、歯周病が改善することが認められています。
これ以外にも特定の細菌が関与している壊死性歯周疾患や侵襲性歯周炎などでは抗生物質の投与は有効です。
さらに、糖尿病など易感染性疾患を有する患者への抗生物質の併用は歯周病の改善に有効であることが示されています。
しかし、抗生物質の使用は上述したように、全身的にリスクが高い場合、特定の細菌が関与している場合、あるいは歯周病が進んでいる場合において使用を考慮することが必要です。
そして、その場合でも抗生物質の繰り返しの投与を行うことは極力避けなくてはなりません。
抗生物質だけでは歯周病は治りません。
歯周病の治療には歯周病を引き起こす原因であるバイオフィルム(プラーク)を取り除くブラッシングや歯石の除去が最も重要です。
しかし、病状によっては適切な歯周治療に加えて抗生物質を併用することで効果がさらに上がります。
薬で歯周病を治したい!気持ちは良く分かりますが、まずは歯科医院で自分の歯ぐきの状態を診てもらうことが大切です。
歯周病のことで悩んでいたら、歯周病専門医、認定医を訪ねて下さい。
これを読めば、
歯周病がどのような病気なのかを知ることができます。