歯周病は、その原因であるデンタルプラーク(歯と歯ぐきの境界部に付着した細菌のかたまり)や歯石を、家庭でのブラッシングや歯科医院での専門的な治療で取り除くことで、その症状が改善します。
歯周病を改善する最も基本的な治療である、「歯周基本治療」を知ろう!
しかし、歯周病が重症化して、歯を支えている歯槽骨がいびつに破壊されたりすると、スケーリング・ルートプレーニングといった歯石などを取り除く専門的治療が十分に行えないことがあります。また歯肉の形が極端に悪い場合には、いくら患者さんが丁寧に時間をかけてブラッシングを行っても、デンタルプラークが十分に取り除くことができないことがあります。
このような場合には、歯周外科治療といわれる治療、つまり歯肉を外科手術によって開き、歯を支える歯槽骨や患部が直接的に見える状態で、歯石の除去や感染した組織の除去、さらには骨の形の修正などを行います。
この治療を受けて頂くことで、プラークコントロールが行いやすい(すなわち、プラークが溜まりにくく、溜まっていてもブラッシングなどで取り除きやすい)歯周組織の環境が作られます。その反面、歯根の露出が大きくなることもあり、見た目が悪くなったり、歯がしみやすくなることもあります。
歯周外科治療で歯ぐきの中のプラークや歯石を除去!歯周病を改善するための方法を解説!
そして現在では、歯周外科手術はさらに進歩して、歯周病の進行によって失われてしまった歯周組織を再生させるための治療が歯周外科治療時に併せて行われることがあります。この手術は歯周組織再生療法と呼ばれ、従来のスケーリング・ルートプレーニングなどの原因除去療法や外科手術だけでは期待できなかった歯周組織の再生を、ある程度期待できるようになりました。
この治療を受けることで、歯を支える歯槽骨だけではなく歯根表面のセメント質とよばれる硬組織が再生され、さらにはセメント質と歯槽骨がコラーゲン線維でつなぎ合わされるという、本来の歯の支え方が再構築されることになります。
しかしながら、現時点では、歯周組織再生療法を行う上での制約がいくつかあり、治療前の歯周組織の状態が一定の条件を満たす場合にのみ、歯周組織再生療法を行うことができます。興味のある方は、是非、かかりつけの歯科医師の先生や、日本歯周病学会のホームページ上で公開している、認定医、専門医の先生にご相談なさって下さい。
病気や怪我で失われた身体の機能や形態を、元通りに再生するためには、実際に再生を担うことができる細胞(広く、幹細胞とよばれます)が必要になります。基礎研究の結果、歯周組織の再生を果たすことの出来る歯周組織の幹細胞が、私達が成人になっても歯の根っこの周囲に存在していることが証明されています。現在、臨床応用されている歯周組織再生療法には、いくつかの種類がありますが、その全ての治療法において、歯周組織の幹細胞を活性化する(あるいは、その細胞の機能を発揮しやすくする)工夫がなされています。以下に、その具体的な治療法を説明します。必要に応じて、これらの治療法が組み合わされることもあります。
歯周外科手術時に、患歯の近くから少量集めてきた顎骨(自家骨といいます)や、人工骨(合成移植材)を、歯周病の進行で歯槽骨が破壊された結果できてしまった歯槽骨の欠損部(歯槽骨にできた穴)に充塡することで、骨を創る細胞の足場を提供し、歯槽骨の再生を促そうとする治療法です。
歯周病の進行で歯槽骨が破壊された結果できてしまった歯槽骨の欠損部(歯槽骨にできた穴)を、GTR膜とよばれる遮蔽膜で覆うことで、歯肉などをつくる細胞よりも、骨やセメント質を作る細胞を歯槽骨欠損部に優先的に導くようにして、その結果として、歯周組織のの再生を促します。
EMDとは、私達の歯根が形成される時に分泌され、歯根表面のセメント質の形成を促すタンパク質です。生後約6ヶ月の幼弱ブタの歯胚(これから歯になろうとする組織)から精製されたEMD(商品名:エムドゲイン®)が商品化されており、歯周病の進行で歯槽骨が破壊された結果できてしまった歯槽骨の欠損部(歯槽骨にできた穴)にEMDを投与することで、セメント質を、さらには歯周組織を再生しようとする治療法です。
塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)とよばれる成長因子(私達の身体が創り出すタンパク質の一種で、治療には人工的に工場生産されたものが使われています)を有効成分とする歯周組織再生剤(商品名:リグロス®)を、歯周病の進行で歯槽骨が破壊された結果できてしまった歯槽骨の欠損部(歯槽骨にできた穴)に投与することで、患歯の周囲にある歯周組織幹細胞を活性化し、歯周組織再生を促そうとする治療法です。先に記した①〜③は医療機器というグループに属しますが、FGF-2製剤は、日本発・世界初の薬剤として我が国で承認され、臨床応用されています。
比較検討した臨床研究からは歯周組織再生療法は通常のフラップ手術のみよりも歯周組織の改善がみられることが実証されておりますが、あくまで平均値の比較ですので全ての症例において必ず再生されるとは限りません。
歯周組織再生療法を成功に導く最も重要な3要素としましては、
⑴再生材料の適応症例であること
⑵施術の方法が適切であること
⑶患者さんの協力が得られていることと考えられております。
⑴に関しましては再生材料毎に適応症例が設定されておりますので、逸脱しているようであればその成功率は下がります
。⑵に関しましては医療者側の問題ですので、十分な知識と経験を持ち合わせている日本歯周病学会認定歯周病専門医にご相談いただくのも選択の1つです。⑶が一番重要ですが、きちんとブラッシングが出来る患者さんでなければどんなに手術が上手くいっても悪化することが知られております。
術前・術直後・術後は歯肉の状態が大きく変化しますので、それに合わせたブラッシング方法を医療関係者と患者さんと協働で確立していくことが、長期にわたって歯周組織再生療法の効果を維持するのに重要です。
使用する各々の再生材料によってメリットとデメリットは異なりますが、厚生労働省で承認されている再生材料はその安全性と有効性が相応に担保されております。しかしながら禁忌に該当する患者さんも設定されておりますので、既往歴や全身状態を担当歯科医師と勘案して実施を検討してください。
歯周基本治療(ブラッシング指導とスケーリング・ルートプレーニング)後に、歯周ポケットが残存している場合に歯肉剥離掻爬術を選択することがございますが、その際に、歯槽骨の形態とポケットの深さを勘案して歯周組織再生療法を用いるかを決めます。
基本的には術前に医療者側からメリット・デメリットを説明し、患者さんの同意を得た上で手術を開始することが多いのですが、場合によっては術中に歯槽骨の形態を見極めて、歯周組織再生療法が適切と考えられれば実施することもございます。手術の流れとしては、局所麻酔後に歯肉を切開・剥離し、郭清術を行うところまでは歯肉剥離掻爬術と同様ですが、その後に歯周欠損部位に再生材料を填入・充填することにより歯周組織の再生を促します。
導入した材料や術式によって術後管理が異なることがございますので担当歯科医師から十分な説明を受けた上で手術に臨んでください。通常、術後1~2週後に抜糸をすることが多く、その間は傷が治っていくことに重きが置かれておりますので手術部位のブラッシングは控えていただくこととなります。
歯周組織の再生は長い時間をかけて引き起こされます。すくなくとも6ヶ月以上はその効果がX線写真上に見受けられず、18ヶ月程度は再生が継続することも知られていますので、適切な術後のブラッシングを担当医療者とともに確立し、長い目でその効果を観察・実感して頂ければと思います。
これを読めば、
歯周病がどのような病気なのかを知ることができます。